現代宗教研究第44号 2010年03月 発行
災害救援における宗教団体の取組〜天理教・曹洞宗・幸福の科学の事例から〜
研究ノート
災害救援における宗教団体の取組
〜天理教・曹洞宗・幸福の科学の事例から〜
小 林 康 洋
全体の構成
はじめに
1.天理教の災害救援
1─1.天理教災害救援の歴史
1─2.天理教の教え ひのきしん 一列兄弟
2.曹洞宗の災害救援
3.幸福の科学の災害救援
おわりに
はじめに
個人的に災害支援・防災というものに関わっている立場で、本宗以外の他宗教団体は災害時にどのような対応をしているのかという疑問から、気まぐれな抽出であるが、積極的に取組んできた天理教、既成仏教教団としての曹洞宗、たまたま話題となった新宗教として分類される幸福の科学について、大規模災害発生時の対応(災害救援)またその考え方が分かればと興味本位で調べてみたものである。宗教者として今後「災害」というものにどう取組むべきか自身の問題としての課題が見つけられればと考える。
1.天理教の災害救援
1─1.天理教災害救援の歴史
天理教における災害救援の歴史は比較的古く、明治二十四年(一八九一)の濃尾地震が端緒であり優に百年を超える。岐阜県を震源とする日本史上最大の直下型地震でM8.0ともいわれ、近隣の滋賀県や福井県にも被害は及んだ。明治時代では最大規模の地震で理科年表によると、死者七、二七三名、負傷者一七、一七五名、全壊家屋は十四万二一七七戸を数えたとされる。その当時はまだ民間の援助組織は立ち上がっておらず、地元の消防団や憲兵、警官、特に軍隊の出動による救護がされるなか、教団としては義援金拠出をするにとどまっていたが、和歌山県南海支部(当時)の山田作次郎初代会長の「濃尾にひのきしんに行こうではないか」との呼びかけによる「災救隊」が先駆けとなり後に「災害救援ひのきしん隊」が組織されるようになる。その背景には仏教の盛んな土地に天理教信者を獲得したいという思いが垣間見ることができる。結果としてはのちに東愛大教会へと躍進する足がかりとなったとしている。その後、明治四十三年東京豪雨水害、大正十二年関東大震災等、日本国内で発生した自然災害に相次いで「災害救援ひのきしん隊」による救援活動を展開するようになる。個々の事例は割愛するが、「ひのきしん」という御旗を掲げ、阪神淡路大震災では延べ一万三千人超の実働による救援を展開している。以下阪神淡路大震災においての救援活動の概略は次のとおりである。
平成七年(一九九五)一月
一月十八日 「天理教災害対策委員会」を召集、対策本部の立ち上げ、全教あげての救援活動を決議。救援物資を搬送する第一次隊の派遣準備、同隊天理市を出発
十九日 第二次隊出発
二十日 第三次隊、天理よろず相談所病院「憩いの家」緊急医療班出発
給水車による給水活動、救援物資の仕分け等を交代で二十四時間態勢で行い。自衛隊との協同作業で倒壊家屋の復旧作業等四十六教区の救援隊により、延べ一三、四二八人が従事した。
1─2.天理教の教え……ひのきしん いちれつきょうだい(一列兄弟)
災害救援をする際の天理教の教語としてまず「ひのきしん」というものがある。
ひのきしん……天理教信仰に基づく報恩感謝の行為(公益的教理)とされる。それは親神の守護により日常生活を送ることができ、また心づかいを正してくれる守護もしてくれる。その親神へのお礼として相手の喜ぶことをする。
神が喜ぶ⇒人が喜ぶ⇒自分も楽しい……「ひのきしん」の世界
単なるボランティアとの違い
〈ボランティア〉(水平面のみ) 〈ひのきしん〉(垂直軸の行為)
+社会(人と人)水平軸
社 会─人 親 神
↑
社 会───人
人
いちれつきょうだい……たとえ国が違い、民族が異なっても世界中の人間は皆一列兄弟であり、慎みと助け合いの輪を広め、一家だんらん、和気あいあいの陽気ぐらし世界建設を目指すことが、人生の意義である。
とする教えがある。この二つが天理教が災害救援をする際の金看板として主張されている。とくに「ひのきしん」は日常的に行うことが重要で、災害救援はその延長線にあるもので当然の行為と捉えている。理念としては平易で誰に対しても説明しやすいものであろう。
参考図書 金子昭「駆けつける信仰者たち 天理教災害救援の百年」天理教道友社
2.曹洞宗の災害救援
大本山永平寺が積極的に関与している社団法人シャンティ国際ボランティア会(SVA)の活動として展開されてきている。そもそもSVAは、「共に生き、共に学ぶ」ことができる平和(シャンティ)な社会の実現をめざす理念のもと、地球上の貧困や戦争、内紛、環境破壊、災害などによって苦しむ人々のそばに立ち、苦しみを分かち合い、その人々と共に解決のための活動、特にアジアにおける教育・文化活動を通じての理念の実現を使命とする団体である。一九八〇年に設立された「曹洞宗東南アジア難民救済会議」(JSRC)がその前身で、カンボジアの難民支援として図書館活動がはじまりである。一九八一年「曹洞宗ボランティア会」を結成し、カンボジア難民への「慈愛の衣類を送る運動」やタイでの図書館活動等東南アジアでの活動を展開し、一九九二年「曹洞宗国際ボランティア会」と改称し、阪神淡路大震災を契機として次第に国内の活動にも力を注ぐようになる。以下、阪神淡路大震災における救援活動の概略は次のとおりである。
平成七年(一九九五)一月
一月十八日 被災地における緊急救援活動を行うことを決定
十九日 スタッフに人を調査のために現地へ派遣
二十六日 兵庫区・八王寺に対策本部を開設、ボランティア第一陣派遣【救援活動開始】
二月十五日 兵庫区・真光寺に拠点を移転
四月七・八日 長田区菅原商店街で花まつりを行う。これより「仮設住宅」と「市営住宅」の支援「子どもの遊び場づくり」の三つのプロジェクトに活動をしぼる。【緊急救援活動終了、復興支援活動へ】
以後、一九九六年を【現地で活動する団体の立ち上げ支援のための一年として位置づける】として同年四月中旬、通いボランティアによる仮設住宅訪問グループ「春風会」結成、九月には識字学級「ひまわりの会」開始。一九九七年三月には「阪神大震災救援活動の総括する曹洞宗関係者の集い」並びに「これからの被災地と私たちを考える集いin神戸」を締めくくりとして現地事務所での活動を終了している。
「SVA阪神淡路大震災復興支援活動報告書」より
現在は宗教、宗派を問わない団体であるSVA。あえて宗教者とはどのような役割を担えるのか?ということを問題として掲げている。若者が自分を見失いやすい昨今において、若者自身の存在意義を見出す可能性を示唆する宗教者としての役割を模索しているという。近年は全国曹洞宗青年会のボランティア委員会と中心として、地域防災をテーマに寺院や子ども座禅会等でも気軽に参加できる「防災寺子屋」活動を実施している。防災から滅災へと繋がるような地域に根ざした新しい寺院活動の推進を図るべく活動を展開している。
3.幸福の科学の災害救援
総選挙では「幸福実現党」を設立し全国三三七人の候補者を擁立し話題となった幸福の科学である。創業年が昭和六十一年(一九八六)で阪神大震災発生が平成七年(一九九五)であるので、九年も経たないうちに大した救援活動はしていないだろうと思われたが、『阪神大震災 神戸を救え‼ 救援ボランティア活動全記録』(幸福の科学広報局編)が存在し単なる広報誌といえども目を通すとその救援活動は迅速で大規模であったといわざるを得ない。
平成七年(一九九五)一月
十七日 被災地視察、災害対策本部設置、大規模支援を決定、神戸救援センター開設
十八日 支援物資第一号到着、芦屋救援センター開設、避難所に支援物資配布
十九日 炊き出し開始、医療活動開始
二十日 救援センターを五ヶ所に増設
二十一日 出張救援センター三十ヶ所、特設風呂の検討開始
二十四日 特設浴場の建設開始
二十五日 以降四ヶ所に特設風呂を設営(〜二十八日)
救援十一日目で救援物資の総量は四トントラックで約一千台分、ボランティアは延べ二万人ということである。被災直後、医療ボランティアが圧倒的に少ないなかで救援二日目にして医師ボランティアによる医療活動を行ったこと、「幸の湯」と呼ばれる特設浴場を設置したことをアピールしている。
おわりに
本来ならば既成仏教教団での比較もしなければならないし、キリスト教、創価学会、立正佼成会についても調べる必要性もあり到底研究と呼べるものではなかったと自省する。
阪神淡路大震災救援の概略比較しかできなかったが、救援の規模はともかく天理教、幸福の科学とも教団の名称を前面に掲げ活動してるが、曹洞宗の場合は、外部組織(企業、医療関係者等)の参入を得ての活動ということもあり宗門挙げてというイメージは薄い。活動のPRという観点からすると主体となる教団名を出して活動することにより、天理教では災害救援により信者数を増やした経緯もあるし、幸福の科学にしてみれば資金力、人材の豊富さを見せ付ける絶好の機会であったようにも思われる。それぞれの持つ信仰原理・教義によって救援活動がなされたのだろうが、金銭的・物質的な支援が中心であったことは相違ない。
課題となるのは、震災において宗教者もボランティアとして活動したが、果たして宗教者ならではの救援活動がどこまで出来たのかということである。その反省を踏まえ、さらに宗教、殊に仏教教団が提供できるのは何なのか真摯に考えていくことである。
《参考書籍》
駆けつける信仰者たち─天理教災害救援の百年
金子 昭(著)
単行本:274ページ
出版社:天理教道友社(2002/01)
ISBN-10:4807304712
ISBN-13:978-4807304714
発売日:2002/01
阪神大震災神戸を救え‼
─救援ボランティア活動全記録 大型本
出版社:幸福の科学出版(1995/02)
ISBN-10:4876882371
ISBN-13:978-4876882373
発売日:1995/02