教化学研究3 現代宗教研究第46号別冊 2012年03月 発行
巻頭言
巻頭言
アメリカ日蓮宗のこれから
米国カリフォルニア州ヘイワードにある日蓮宗開教布教センターの開設二〇年記念法要が平成二二年(二〇一〇)一〇月三一日、同センターで営まれた。
日蓮宗新聞(平成二二年一二月一〇日)はその様子を次のように伝えている。
翌一一月一日(月) から四日(木)まで、同センターで国際布教研修(Retreat for International Priests)が開催された。八時三〇分から夜九時までのハードなもの。その主な内容は次の通りである。
第一日
開講式(Opening Ceremony)
講義1 戒名の付け方(Buddhist Name)
実践講習1 葬儀(Funeral Service)
講義2 給仕について(Serving)
第二日
講義3 開会について(Kai-e)
実践講習2 追善法要(Memorial Service)
講義4 日蓮宗のシステム(Nichiren Shu System)
第三日
講義5 新宗教問題(New Religions)
実践講習3 結婚式(Wedding)
最終日
自由討議(Discussion)
閉講式(Closing Ceremony)
この間に、朝勤(Morning Service)、昼食(Lunch)、夕勤(Evening Service)、夕食(Supper)がある。参加者は近くのホテルに宿泊し、ホテルで朝食をすませた。
私は講義3と5を、山口功倫所員は講義6を担当した。タラビーニ勝亮師は通訳として私たちの講義を助けた。
研修中のランチは楽しかった。食法(Table Grace)は英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語などで唱えた。日蓮宗の教えが、ゆっくりとではあっても、西欧世界にひろがっていることを実感した。
最終日のランチのとき、タラビーニ勝亮師のご両親が来られた。タラビーニ師のうれしそうな顔を忘れられない。
ところで、平成二三年一月に開催された当研究所主催第二一回法華経日蓮聖人教団論セミナーの講演をお願いしたケネス・田中先生が東京新聞(平成二三年一二月三、一〇日)に「欧米人を魅了する仏教の秘密」と題して次のように述べていた。
これは、どういうことか。
雇用の不安定は心の不安を増幅する。必然、「頼るのは自分しかない」という孤立化は深まる。人々は「聖なる心の体験」を求め始めている。
欧米の仏教は、こうした先進国現象を着実にとらえ、誰もが個人で実践できる瞑想、題目、念仏を提供することで人々の精神的なニーズに応えることに成功しているといえる。
研修中、私は、開教師や国際布教師のMorning Service やEvening Service の真剣な動作、英語による読経の美しさに感動したが、それは彼らがそれを仏教の実践(Practice)そのものであり、「聖なる心の体験」だと考えていたからではなかろうか。それに、お経を母国語で朗唱することは、私たち日本人が直接に理解できない漢文を読誦することとは違った体験をもたらすのではなかろうか。私たち日本の仏教者がついに為しえなかった実践を、彼らは幸運にも体験している。この意味では、私は、「アメリカ日蓮宗」の誕生にたちあっていたのである。
日蓮宗開教布教センター平井智親所長はアメリカ仏教= アメリカ日蓮宗について次のように指摘している。
かつて、中村元氏は『東洋人の思想方法』の中で、インド、中国、日本等の人びとのものの考え方の違いを論述した。その結果、仏教はアジア各国でいろいろの花を咲かせた。仏教は、アメリカでどのような花を咲かせるのだろう。楽しみである。
金井勝海・久美子夫妻に寿司やに案内された。日本のお寿司はCalifornia Roll と呼ばれるものとなって、アメリカ人に好まれている。四〇年以上も前のことだが、サンフランシスコのパイン通りに道場を構えて布教されていた釈日5 巻頭言 アメリカ日蓮宗のこれから(三原)法師が、私への書簡の中で
と記されていたことを思うと、隔世の感である。
研修会修了後、平井智親師、マコーミック龍英師、山口功倫所員とともに、ゴールデンゲートブリッジを渡り、山路を通ってグリーンガルチ禅農場へ行った。僧堂に入ったとき、ひとりのアメリカ人と思われる女性の修行者は、私たちを迎えて合掌し、礼拝した。そのとき、女性の修行者が浮かべた微笑を忘れることができない。それは慈悲と平安にみちていた。アメリカ仏教は美しい花を咲かそうとしている、と私は感じた。
これから、ヘイワードに集まった開教師と国際布教師が各々の国の色で日月の光明を発揮することを期待している。