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現代宗教研究第43号 2009年03月 発行

立正佼成会の全会員本尊勧請方針発表について

第九回日蓮宗教化学研究発表大会

立正佼成会の全会員本尊勧請方針発表について
伊 藤 立 教
 
 
 《発表趣旨》「日蓮宗友好団体」の立正佼成会が、平成二〇年三月の創立七〇周年記念式典で、「全会員へのご本尊勧請およびご法号勧請」の方針を発表した。これは、「共存関係の解消宣言」なのか。立正佼成会に比べて日蓮宗は、布教拠点数は九倍、教師数は一〇分の一、信者数はほぼ同じ。出家主義日蓮宗、在家主義立正佼成会、と対照的ながら、寺離れ、法座離れの悩みは同じ。開宗七五六年の日蓮主義伝統教団日蓮宗、創立七〇年の法華経主義新興教団立正佼成会。両者の対比は、日蓮宗教化学研究上の示唆に富む。
 ※以下文中、t・jとあるのは、それぞれt=週刊仏教タイムス平成二〇年(二〇〇八)三月一三日付記事、j=文化時報平成二〇年(二〇〇八)四月九日付記事の引用である。
 
「全会員へのご本尊勧請およびご法号勧請方針発表」は初めて
  t「全会員へのご本尊勧請およびご法号勧請」は、「創立七〇周年七つの取り組み」の第一番。
の意味するものはなにか。立正佼成会は、
  t創立(一九三八─昭一三)から二〇年ごとに意義付け。
   創立から長沼妙佼(ながぬまみょうこう、一八八九〜一九五七)脇祖遷化までを「方便教化の時代」
   本尊が確立した昭和三三年(一九五八)からを「真実顕現の時代」
    創立三〇周年の昭和四三年(一九六八)に主として幹部会員宅にご本尊勧請
   創立四〇周年にあたる昭和五三年(一九七八)から「普門示現の時代」
    平成三年(一九九一)二代目庭野日鑛(にわのにちこう、一九三八〜)会長就任
    平成六年(一九九四)会長後継に庭野光祥(にわのこうしょう、一九六八〜)指名
   創立六〇周年の平成一〇年(一九九八)に総合目標「一人ひとりの心田を耕す佼成会」を掲げる
    平成一一年(一九九九)庭野日敬(にわのにっきょう、一九〇六〜一九九九)開祖入寂
という歴史をもつが、「全会員へのご本尊勧請およびご法号勧請」は初めてのことである。
 
「ご本尊およびご法号」を全会員が勧請して大教団の結束を図る?
  j平成二〇年三月五日の創立七〇周年記念式典で、国内二三九教会と海外二教会、および国際伝道本部直轄拠点にそれぞれ一〇〇体の本尊と法号を授与。今後、教会ごとに順次会員各家に勧請。「会員一人ひとりが、御本尊勧請の歓び、有難さをかみしめ、大いなる志気をもって布教伝道に歩みだすところに新生『立正佼成会』がある」と基本方針。
というのである。さらに詳しく渡邊恭位(わたなべやすたか)理事長(三年前から布教本部長)が、
  t「仏教の世界観を根底において斉家(せいか、家庭をととのえること)を中心に地域社会から世界にいたるまで布教伝道する教団僧伽をつくろうということです。あたたかく、たのしく、たのもしい教団です。一方で、会員一人ひとりの質的向上を目指していこうと。仏教的価値観を学び、仏性礼拝を行ずる。いうなれば、『合掌』をもって行動できる人間づくりです。つまり個人と全体を生かした僧伽を目指していくというのが基本にあります。その具体的な取り組みの一つとして、全家庭へのご本尊・ご法号勧請があります。また、これと対(つい)となって会員の信仰姿勢や日々の実践行を示した『基本信行』があります。(中略)本尊の勧請とは、本尊を礼拝の対象とするだけでなく、仏さまと私たちが一体になることであり、他人に感謝し、愚痴をこぼさない人間になることが大事であります。また、仏教の目的は成仏でありますが、全人類救済ができて完成であります。したがって、布教のない宗教はありません。(中略)立正佼成会の本尊は久遠の本仏であり、開祖・脇祖が師匠。」
と言っている。
 そう、「大いなる志気をもって布教伝道に歩みだすところに新生『立正佼成会』がある」のであり、「布教のない宗教はありません」から、創立七〇周年を期して、新生立正佼成会を宣言したのである。その第一は庭野日敬開祖が、
  t「信仰の根本は正しい本尊帰依にあります。(中略)大聖堂が完成したとき、久遠本仏の意義を完全に具現した〈久遠実成大恩教主釈迦牟尼世尊〉が勧請されました。これは三国仏教史上にも例をみない人類救済の悲願をこめた本仏と申せましょう。」
と言ったように、「信仰の根本は正しい本尊帰依にあります」から、立正佼成会の「ご本尊およびご法号」を全会員が勧請して大教団の結束を図ろう、としているのではないか。
 
「ご本尊勧請およびご法号勧請」の形態
 「ご本尊勧請およびご法号勧請」の形態─ご宝前(立正佼成会でいう仏壇)
  ご本尊・ご法号・総戒名あわせてA四判横長サイズ。中央に〈ご本尊〉額装宮原柳僊作久遠実成大恩教主釈迦牟尼世尊絵像。向かって右側に〈ご法号〉開祖日敬一乗大師札・脇祖妙佼慈道菩薩札。向かって左側に〈総戒名〉諦生院法道慈善施先祖○○家徳起菩提心札・○○家宅地因縁精霊大悲生所善義起菩提心札。額装本尊は本部から教会を経て会員に、軸装本尊は本部から直接会員に渡される。(別図参照)
  《従来の本尊─霊友会本尊、御旗本尊、曼荼羅本尊(弘安四年)、昭和三三年本尊確定・勧請宣言、三九年大聖堂安置、啓示による守護神勧請は平成一九年で終了》
 
日蓮聖人の体解した法華経や教主釈尊への信仰的立場を継承することを否定
 これまでは、「葬儀法事は菩提寺で、日常信仰は佼成会で」と《共存》方針であったが、ご本尊を入れるとなると、たとえば日蓮宗檀信徒で佼成会会員でもある家はどうするのか。「ご本尊を入れることは無理強いしない。会員から希望があれば入れる。あくまでも教えの実践であって、熱心な会員に意義を解らせることが目的」、とは言っているが、すでに立正佼成会は、独自の葬儀をおこなっている。「日蓮聖人は法華経を弘めた先師のひとりで、立正佼成会会員にとっての師匠は庭野日敬開祖と長沼妙佼脇祖」としているが、御会式は行っている。立正佼成会『経典』の勧請文・回向文には、「南無日蓮大菩薩」と明記されている。法華経の三大聖地として、印度・霊鷲山、中国・天台山、日本・比叡山をあげているが、身延山は入っていない。
 『日蓮宗事典』(昭和五六年、日蓮宗宗務院発行)の〈立正佼成会〉項は、
  昭和三三年一月五日に「久遠実成大恩教主釈迦牟尼世尊」が本尊であることを宣言した。これは、日蓮聖人の体解した法華経や教主釈尊への信仰的立場を継承することを否定し、法華・日蓮系の教団としての特色を法華経信奉に帰一させようとするものであった。(中略)日蓮聖人の体解した法華経信仰ならびにその教主釈尊への信仰から一層距離をおきつつ、教団の「近代化」を促進し「諸宗教協力・国民皆信仰」の名のもとに通仏教的色彩を濃厚にしている。
と分析している。
 
日蓮宗は建物による布教、立正佼成会は人間による布教
 文化庁の『宗教年鑑(平成一九年版)』によると、
  日蓮宗 寺院四六三六、教会三〇七、布教所二三九、教師八二一〇(男七二一五、女九九五)、
      信者三八五三五九二
  佼成会 教会二三九、布教所三五二、教師八三一八四(男二〇〇一三、女六三一七一)、信者四二八八四六六
 『宗教年鑑』の平成八年度版と一八年度版をもとに、この一〇年間の信者数の増減を見た、「週刊ダイヤモンド」平成二〇年一月一二日新春号記事「信者増加は三分の一! 仏教宗派別の信者増減率ランキング」では、
  日蓮宗 六・七%増加
  佼成会 二四・六%減少
となっている。(『宗教年鑑』のデータは、各教団の自己申告による。)
 日蓮宗は、布教拠点数は立正佼成会の約九倍、教師数は一〇分の一。つまり、日蓮宗は建物による布教、立正佼成会は人間による布教と、対照的である。信者数は、日蓮宗は増加傾向、立正佼成会は減少傾向ながら、ほぼ同じ。出家主義日蓮宗、在家主義立正佼成会、と対照的ながら、寺離れ、法座離れの悩みは同じ。開宗七五六年の日蓮主義伝統教団日蓮宗、創立七〇年の法華経主義新興教団立正佼成会、両者の対比は、日蓮宗教化学研究上の示唆に富む。会員を一〇人以上増やした者を教師(女性が男性の三倍強)として布教に専従させている立正佼成会の体制は、信者が信者を増やす「講」の伝統を持つ日蓮宗が見直し、教化学として体系化すべきである。
 
「全会員へのご本尊勧請およびご法号勧請」は「独立既成教団化宣言」か
 立正佼成会は、開祖在世中に第二代会長を就任させ、第三代会長も指名している。そのうえでの「全会員へのご本尊勧請およびご法号勧請」は、「独立既成教団化宣言」に聞こえる。「日蓮宗友好団体」立正佼成会の動きから、目が離せない。
 

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