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現代宗教研究第38号 2004年03月 発行

古都税問題と仏教会の財団法人化

古都税問題と仏教会の財団法人化
(日蓮宗現代宗教研究所嘱託) 石川修道  
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 平成十五年六月二十一日(土)午後一時より、京都市嵯峨小倉山の常寂光寺の長尾憲彰師を訪ね、「古都税問題と京都仏教会の財団法人化」の面接聞き取り調査を行った。調査メンバーは、現宗研主任伊藤立教と、教団・教化プロジェクト会議メンバーの石川修道と野村環右である。
 京都古都税闘争は、昭和五十七年八月より同六十年八月までの三ヶ年つづいた。古都税とは、京都市が文化観光税として社寺より徴収するものだった。文化観光税から古都保存協力税と名称は変わり、京都市条例で対象となるのは、年間二万人以上の拝観者のある社寺である。一回の拝観につき大人五十円、小中学生三十円の古都税を社寺が徴収する。文化的資産や自然環境の保全、整備に使われるものである。京都市との論議の中で、京都仏教会は対内的、対社会活動のため、仏教会の「財団法人化構想」を打ち出した(五十九年三月公表)。この構想は、拝観寺院の意識変革、自浄努力の伸長が見込まれ、評価できるものであった。昭和六十年に入ると、不動産業社長・西山正彦氏(昭和二十一年生れ、当時三十八歳)が古都税問題に介入してきた。彼は仏教会の執行部の代理的存在の若手僧侶グループに、市に対する戦略指導をしていた。七月十日、古都税実施日を迎え、仏教会の十九カ寺は一斉に無料拝観に入り、他は拝観停止に突入していった。八月八日、西山氏の仲介により京都市と仏教会の和解が成立した。しかし、十二月に入ると仏教会が税に代わる一定の寄付金を市に納付する和解書に見解の相違が生じ、十二月五日より仏教会は信教の自由を死守するため無期間拝観停止に入ることを宣言した。「京都仏教会は、財団法人として認可されると、その財団が拝観業務を代行、拝観料収入は一旦財団に納める。財団は寺院に代わって協力金として税相当額を市に納める」というのが、「あっせん者会議」の「あっせん案」であった。拝観料収入が明確になるということは、国税局が寺の経理を解明することになり、宗教法人に国税局が立ち入る手がかりとなる恐れがあった。国税局が分っているのは、僧侶の給与所得分だけである。
 仏教会の財団法人化は、法人役員人事に一般人の介入が容易になり、公益法人化による利権のウマ味「ビジネス」が生まれる。地域の再開発のため、寺有不動産の移動、統合に西山正彦氏が「利権」を見出して、古都税問題に介入したのである。西山氏介入の本意を知った日蓮宗常寂光寺・長尾憲彰師は、仏教会理事を辞任、仏教会脱退、拝観停止、無料拝観制、志納金制へと独自性を発揮した。仏教会は西山氏という事件屋に操られ、自分たちの利益保全のため、市民・拝観者を裏切った。仏教者の仏教者による独自な判断により、信教の自由、宗教団体の自治を守るべきと、長尾憲彰師は語った。
  =cd=70c0
 さて、東京都心で、寺院を核にした再開発事業が完成している。港区青山の浄土宗梅窓院は、オフィスと住宅・寺院の複合施設を建設した。寺院の五千九百平方メートルの敷地のうち、二千百平方メートルを五十二年間の定期借地権で情報処理会社に賃貸する。会社は十二階建て自社ビルを建設した。残りの敷地に梅窓院が事業主となって、五階建ての寺院棟と地上十四階の賃貸マンション(二十戸)を建設した。総事業費は約百億円。寺院棟とマンション低層部には三百四十席のホールや、梅窓院が運営する茶道・染色教室を設置した。同地は防火構造の建物しか建てられず、その建設費用は檀家の寄付金だけでは限度があるため、定期借地権方式を取り入れた。都内一等地の広面積を有する寺院は、都心回帰で住民が増え、街の活性化に寄与すると期待されている。
  =cd=70c1
 人口減少の過疎問題を抱える宗教教団・宗教法人は、寺院とその地域を発展させるために財団法人化・社会福祉法人化の可能性がある。宗教教団が財団法人又は社会福祉法人設立のために、基本財産と運用資産を提供し、過疎寺院を統廃合し、地域住民のために、教育、スポーツ、文化事業、老人介護施設を建設し、寺院の社会性を高め、仏教精神を発揮、顕彰するのである。三〜五ヶ寺が統廃合するか、または各寺が独立のまま、財団法人、福祉法人に敷地を有償、無償で提供し、住職、寺族は、その施設の経営者又は職員として働き、社会貢献する。もちろん宗教活動の重要性は、定款に謳う必要がある。そこでの実績によって宗教教団は課金を付し、寺院の独立経営を確保するのである。過疎寺院と包括関係にある宗務院が確立した、経営維持関係になるのである。そのために宗務院は、寺院存続のための種を播くべきである。
 以上の事業設立につき、=cd=70f2宗教法人寺院規則を変更し、「社会福祉活動とその施設建設」の一項を加入する。=cd=70fb宗務院(日蓮宗)が社会福祉法人・財団法人を設立して、法人としての寺院と契約し、福祉活動を実践する。=cd=70fc三〜五ヶ寺が協同組合を結成し、社会活動を行う。=cd=70fd三〜五ヶ寺が非営利活動団体(NPO)の法人として社会活動を行う、というケースが考えられる。国もしくは地方公共団体は宗教法人には補助金を提供できないため、=cd=70fb〜=cd=70fdの方法で別法人を設立して活動することが望ましい。特に市町村の福祉課で、どの事業が望まれているか事前調査が必要である。また事業設立に、宗教法人の精神を理解するアドバイザーが大切な要素である。可能ならば、その人材こそ宗務院が養成すべきであり、利権で動く事件屋の介入は絶対避けるべきである。そのための調査研究グループが構成され、金融関係、法律関係、所轄官庁事務関係者を入れて検討すべきである。

 

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