ホーム > 刊行物 > 教化学研究(論集) > 教化学研究1 現代宗教研究第44号別冊 > 日蓮宗の自死対策の現状について

刊行物

PDF版をダウンロードする

教化学研究1 現代宗教研究第44号別冊 2010年03月 発行

日蓮宗の自死対策の現状について

 

特別発表
 
日蓮宗の自死対策の現状について
 
吉 田 尚 英
 
一、「自殺対策に取り組む僧侶の会」の事例紹介
 本題に入る前に、「自殺」と「自死」という語句について触れておきます。「殺」という文字には悪いという価値観が既に含まれています。自死(自殺)を取り巻く問題を考えるとき、良い・悪いという価値観で裁くのは望ましくないことだと考えます。そこで、できるだけ「自死」という言葉を使いうようにします。「自殺対策に取り組む僧侶の会」がその名称に「自殺」を選んで使っているのは、インターネット検索などで、支援を必要としている人に見つけてもらいたいという理由からです。
 「自殺対策に取り組む僧侶の会」は、自死問題を何とかしたいという思いで集まった超宗派の僧侶の集まりです。自死問題について学ぶだけではなく、必要とする人々のために具体的な支援を展開しています。主な活動内容は、自死者追悼法要、手紙相談、自死遺族の分かち合いのつどい等です。現在、会員は二十六名、そのうち日蓮宗教師は六名です。
 はじめに、自死者追悼法要の紹介をします。「いのちの日 いのちの時間」と銘打って、毎年十二月一日に開催し、今年で三回を数えます。平成十三年、厚生労働省が、いのちの大切さを強調し啓蒙するため毎年十二月一日を「いのちの日」と定めました。その「いのちの日」に、急いで流れる生活や仕事の時間とは別に、ゆっくりと心の内側に向かって人生やいのちを見つめる時間「いのちの時間」を持ってほしいという思いを込めて、追悼法要のタイトルを「いのちの日 いのちの時間」と名付けました。
 自殺で大切な人を亡くした方々は、その突然の死に大きなショックを受け、親戚や近隣などからの心ない言葉・偏見にさらされ、自責の念にさいなまれ、諸々の死後の手続きに追われ大混乱の状況にあります。そのような中で、通夜・葬儀を執り行なっても、心から祈ることができなかった、何も覚えていないという話さえ聞きます。そこで、心から供養ができなかったと悔やんでいるご遺族たちに集まっていただいて、安心して祈ることができる場を提供しようと開催しているのがこの法要です。同じような思いや体験をした方々が、ともに祈り、語り合うことによって少しずつ癒されていく機会になると思います。
 自死遺族の中には近くの菩提寺で供養を頼むと、また誰かに何かを言われるという不安があり、菩提寺で法事をする気持ちにならないという方もあるそうです。ですから都会の寺院で、人知れず境内に入って、自然にその会場に座って、周囲の参列者に気を使うことなく、近くに座った僧侶と共に、故人に祈りを捧げる。そしていのちを見つめる時間を過ごすことができる。それがこの追悼法要です。今年も十二月一日、「ボーズ・ビー・アンビシャス」という超宗派の僧侶の集いの会場で知られる港区愛宕の青松寺で開催されます。
 つぎに「自死の問い・お坊さんとの往復書簡」というタイトルの「手紙相談」を紹介します。我々僧侶は忙しくて、死にたいほど苦しんでいる人の悩みを受けとめることはできないとお考えの方も多いのではないでしょうか。電話や面談では即答を求められ、時間も場所も関係ないなどの負担が大きくなります。手紙の場合は、返信するまで時間的な余裕があり、冷静な判断や仲間との相談もできます。そこで平成二十年三月から取り組み始めて、現在千三百通以上の手紙相談を「僧侶の会」として受けました。即効性はありませんが、少しずつ浸透しています。誰でもいいから聞いて欲しいこと、家族や職場では言えないことなどを、僧侶だから安心して文字に綴ることができる。文字にした時点で自分の悩みが整理される。僧侶から手書きの返事を貰ったことによって、一人ではないんだ、誰かと繋がっていると感じ、また返信を書いていただける、そんな活動です。
 返信文案は、僧侶が三人一チームで相談しながらまとめます。一通の相談手紙につき、一人の担当者文案を作り、電子メール上でグループ内の他の二人に校閲してもらいます。何度かやり取りをする中で、誤りや偏りがないかをチェックして、全員の承認が得られたところで担当者が手書きで清書して投函します。さらに、月ごとにすべての手紙のやり取りを、数人が目を通し適切な対応がなされたかを検証します。その上で、問題があった事例や良い対応を隔月の定例会にて紹介し、会員全員で情報を共有し、相談内容の質を維持しています。当然、会員以外に手紙の内容が漏れることがないように「秘密保持誓約書」に署名をして上でこの活動に臨んでいます。
 三つ目は、毎月一回、大切な方を自死で亡くされた方々が思いを語り合う「いのちの集い」です。「わかちあいの会」は全国各地にありますが、お寺を会場に、僧侶が進行役になって行なわれている「わかちあいの会」はここだけです。今まで誰にも言うことができずに、心の中に閉じ込めていた思いを言葉にして、否定されることなく受けとめられることによって心が軽くなったという方がたくさんいらっしゃいます。その場所が仏さまの前だということで、さらに安心してくださいます。
 その他、研修会への講師派遣、僧侶による自殺対策の組織の立ち上げ支援などをしています。もし、「自殺対策に取り組む僧侶の会」に入会したいという方は、お声を掛けていただければと思います。
二、日蓮宗「『いのちの活動』に関するアンケート」の報告書から
 「『いのちの活動』に関するアンケート」は、本年の『宗報』二月号とともに全国寺院送付され実施されました。その中間報告が『宗報』十月号に掲載されました。さらに詳しい結果や考察がまとめられた『報告書』は「アンケート集計部会」によって作成されました。
 アンケートは全国の日蓮宗寺院四八一九ヶ寺に送付、回答数は一〇一七件、回答率は約二一パーセントです。アンケート作成にあたり、浄土真宗本願寺派が昨年行なった同様のアンケートが参考にされました。浄土真宗本願寺派では、約一万ヶ寺に配布して、回答数が二六九四件、回答率は約二五パーセントという結果が出ています。日蓮宗の方が若干回答率は低いようです。
 このアンケートに僧侶一人ひとりが回答することによって、自死問題に対する認識が新たになればという意味も含めて実施されました。
 ではアンケートの考察に移ります。現代社会の自死の現状についてたずねた「平成十年以降、毎年三万人以上の自殺者が出ているということを知っていますか」という設問に対して、八八パーセントが「知っていた」と答えています。また「過去十年間で自死された方の葬儀を何回ぐらい行いましたか」という設問に対して、「過去十年間で一回以上その自死者の葬儀をしている」との回答が、七五・一パーセント、四人に三人は自死者の葬儀を行なっているという結果です。現代の自死の現状についてある程度の認識があり、お寺や僧侶には自死問題に直接的に関わる機会が多いということがここから読み取れます。
 「自死をどう考えるか」という設問に対して、「如何なる理由にせよ自死は認められない」との回答が六六・七パーセント、約七割です。その回答者のうち、八三パーセントが「自死は命を粗末にすること」「自死は仏教の教えに反していると思う」という回答をしています。「自死は弱い人がするものだと思うか」という設問に対しては「そう思う」「やや思う」が二一・六パーセントで、社会的な問題で自死が増えているということが多少認知されているようにも読み取れます。「自死を認められない」「自死は弱い人がするものだ」と答えた回答を分析していくと、若い僧侶より年輩の僧侶のほうが「自死を認められない」「自死は弱い人がするものだ」との意識が高いということも読み取れました。
 「自死のサイン」に関する問いでは「自死したいと口にする人は本当は自ら命を絶つことが無いと思うか」という設問に、「思う」「やや思う」が三五・四パーセント、「自死は何の前触れもなく突然起こると思うか」という設問に「思う」「やや思う」が四一・六パーセントでした。悩んでいる人が何かしらのサインを出していたとしても、読み取れない人達が三割・四割いるということが分かります。そこから自死問題への啓蒙活動の重要性が浮き彫りにされてきました。
 「自死は社会的な問題である」という設問に「思う」と答えた人は七六・五パーセントです。報道等の影響で自死は社会問題であるという意識が浸透しているようです。
 「自死者の葬儀や年回法要で、何か特別な配慮をしていますか」という設問に「配慮している」と答えた人が四七・七パーセント、約半数です。その回答者に「どのような配慮をしていますか」と具体的な記述をしていただきました。そこには「命の大切さを説く」「自死者は成仏しない」「自殺は悪いこと」「アドバイスや励まし」「供養の大切さを説く」など、いわゆるお説教に近い内容が目立ちました。葬儀の際、ショックで理解力が著しく低下している自死遺族に仏教的、教義的な話をしても受け入れ難い。むしろその法話を理解しようとするために疲れてしまって、或いはその理解できないことでかえって混乱したり、疎外感を引き起こしたりするといわれています。もし「配慮をする」のであれば、法話はできるだけ平易な言葉、分かり易い言葉で、そして文章は短めに。自殺は悪いことだとか、命の大切さ、儚さを説いたり、死の意味や人生の意味を考えさせたりするなどの話は、遺族を傷つけることになるので注意が必要です。そういう状況を十分理解していない僧侶が多いということがこのアンケートから読み取れました。
 続いて、「自殺したいという人の相談を受けたことがありますか」という設問に対して、「ある」と言う回答が三三パーセントありました。三人に一人が相談を受けています。さらに「どのように関わりましたか」という設問の記述回答を分析していくと、「アドバイスをする」「信仰を説く」「霊的な指導をする」など、やはりお説教に近い答えが四割あり、「話を聞く」「寄り添う」というような意見は二割ほどです。
 「自死は仏教の教えに反していると思うか」との設問に、「思う」「やや思う」が八二・九パーセント、かなり高い数字です。浄土真宗本願寺派のアンケートでも同じ設問がありましたが、「思う」「やや思う」が七四・一パーセントでした。若干ですが日蓮宗のほうが「仏教の教えに反している」と思う人が多いということが分かりました。
 実際に「自殺対策に取り組む僧侶の会」で手紙相談や追悼法要などでご遺族に関わっていると、悩み苦しんでいるご遺族に、「故人は地獄に行った」「仏教の教えに反している」「成仏していない」などとは、決して言えません。また、我々日蓮宗の僧侶や法華経に触れてお題目を唱えた人達は、「久遠のお釈迦様の下で必ず救われる」ということを説いていかなければならないと思います。まさに現場に立った教化学が必要で、臨床の場で考えて、臨床の場を体験する重要性を感じています。
 次に自死の予防、遺族のケアについての設問です。「自死遺族の支援」「自死予防・防止」に関して僧侶の関与が有効であるかという問いに対して約八割が「有効である」と答えています。しかし実際に活動しているのは約二割です。なぜ関わらないのかとの設問に、「実際にどうすればよいのか分からない」「専門的なスキルが無い」「自信が無い」など自死対策への関わりかたが分からないという意見が目立ちました。そのような観点から、これから寺院として、仏教界として、具体的な自死対策への関わり方を示していく事の重要性が浮き彫りになったアンケートです。
 アンケートの「報告書」をご覧になりたい方は現宗研にお問い合わせ下さい。ぜひアンケートのデータと考察を、ゆっくりとご覧になりながら読み取っていただきたいと思います。数字は嘘をつきません。日蓮宗の現状が表れています。
三、教団付置研究所懇話会の報告
 各教団に設置された研究機関で組織する「教団付置研究所懇話会」が、十月九日に開催されました。大会テーマは「自死について」です。前半では、浄土真宗本願寺派・金光教・キリスト教プロテスタントから三氏が、「教義から見た自死」について発表し、それぞれの教義や教祖の言葉に基づいて「自死者が救われるか否か」などの見解を述べました。後半では、浄土真宗本願寺派・孝道教団・日蓮宗から私が、「各教団の自死対策」について発表がありました。ある参加者からは「教義的な裏付けで、自死が良い、悪いということをはっきり言ってもらって大変参考になった」というご意見もありました。
 ここでも自死対策の現場で手紙相談などをやっている私としては、臨床の現場に立って教義を考える教化学の重要性を感じ、現宗研にしっかりとした考え方を打ち出していただきたいと感じました。
 なお、「教団付置研究所懇話会」当日の内容については『中外日報』切り抜きを参照してください。
四、日蓮宗の具体的な取り組み
 では日蓮宗としては、いったいどんなことをしているのか、どんなことができるのかを考えたいと思います。
 資料「日蓮宗の自死対策への取り組みのフローチャート」をご覧ください。これは昨年の段階における宗門の自死対策の概念です。まず、宗門運動本部の中で現宗研や伝道部が関わりながら、研修会や教箋、パンフレットを作成する。つぎにそれを支部活動、管区教区の中で研修や資料配付などを行なうという流れを表したもので、具体的な実践内容までは盛り込まれていないのが実情です。
 今年アンケートを行なったこともひとつの実践ではありますが、このアンケートを元に、次に具体的な活動をどのように展開していくかが、今後宗門の大きな課題だと思います。そんなジレンマを感じる中、平成二十一年度京浜教区教化研究会議では自死対策について取り上げることになりました。タイトルは「自死者の葬儀を通して社会問題を考える」。宗門の自死対策をどう盛り上げていったらいいかというところまで、話が及ぶようにと考えています。京浜教区教研会議から日蓮宗の自死対策の総合プログラムの試案を打ち出して、実現に進めていこうと準備を進めています。
 資料「日蓮宗『自殺問題・総合対策プログラム』活動プラン」をご覧ください。「自殺総合対策大綱」とは、国が定めた「自殺対策基本法」の基本的な実行内容で、その六つの基本的な考えに基づいて、実際にお寺で僧侶がどのような行動をしたらよいかを、準備段階からレベル一、二、三まで分類して考えてみました。
 準備段階は来年一年の活動計画です。
 レベル一は、比較的簡単にできる段階、敷居の低い段階から考えていこうというもので、以下のようなことを考えています。
・各寺院に既存の資料を配付、情報発信、既存ポスターを提示をする。敢えて宗門や宗務所等で資料を新しく作るより、行政やその他地域でさまざまな資料が、既に完成されているので、それを寺院に配布して読んでもらう、或いはそれを檀信徒に配ってもらう。
・相談活動ではなく、取り次ぎ窓口を紹介する。行政や医療関係等へ、お寺が取り次ぎできるような情報の周知と、取り次ぎ場所という表示板を作ったらどうか。
・自死遺族への事後対応では、むしろ一歩進んで考えなければならない。そこでレベル一の段階から、自死者の葬儀、法事に関する研修会を、各管区、各地で開催する。
・地元の連絡先、窓口等で、ネットワークを作る。
・檀信徒や寺院における情報を人権と守秘義務を守った上で、収集分析をする。そのデータの積み重ねが、お寺でできることに繋がっていくのではないか。
・宗門内に中心的なセンターを作り、各地域、管区に支所を作る。
 そしてレベル二、レベル三と積み重ね最終的には、「資料や研修会も自前で」「相談員や相談体制を充実させる」「日蓮宗宗門として自死者の追善法要や分かち合いの集いを行なう」「他の団体や檀信徒等とネットワークを組む」「現宗研を中心に宗教界をリードしていく自死問題の研究機関を作る」などを五年から十年ぐらいの間で積み上げていくプログラムを京浜教区教化研究会議運営委員で考えています。色々な形に発展して、皆さんのお耳にも届くことがありましたら、是非ご協力をいただければと思います。
五、私達に何ができるのか
 自死問題を考えるとき、お寺でできることの基本を三つお話します。
 一番目は、「いのちの時間」。お寺は安心できる場所であり、いのちを見つめる時間の中にあるということ。死にたいほど悩んでいる人は、ほんとは死にたくて死ぬわけではない。死ぬしかなくなって、追い詰められた上での死が自死です。現代この忙しく追いかけられ、早いスピードの中でゆっくり悩んでいられない人達が多いなか、安心して悩める場所、ゆっくり悩める場所、自分を見つめられる場所を提供できるのが、お寺ではないかと思います。お寺は、いのちの時間の中にある、と思います。
 二番目は、「認め合う心」。声なき声に耳を傾けるということ。悩んでいる方は、誰に相談していいのかが分からなかったり、職場や家庭で誰にも認められずに孤独になって、でも誰でもいいから聞いて欲しかったのではないかと思います。それを、見栄を張って話さなかったり、不満が蓄積してきて、絶望してしまう。周りの方がその声なき声に耳を傾けて「何か辛いことがあるのではないか」と声をかけてあげる、或いは、ただ手を合わせて拝んであげる。これが本当のこの但行礼拝、合掌礼、あなたの心の中の仏様に手を合わせますよ、祈りますよ、ということではないかと思います。
 そして三番目、「悩みかたを学ぶ」。手紙相談、電話相談などでは、その相談者の九割方が女性です。男性はほとんど相談してきません。男性は力が強く確実な死に方を選びますので、男性の自殺率は女性の三倍に及んでいるといわれます。日本では、子供のころから根性とか頑張れとか言われて、弱音を吐いてはいけないと教育された方が多いと思います。悩みを口に出したり、言葉にする、そういう訓練がされてないのではないかと思います。ですから、ここに集まっている男性の方も、是非、積極的に弱音を吐ける場所を作っていただくといいと思います。悩みが打ち明けられる相手を持つことも大事です。家族に言えなかったり、奥さんや子供には、「もう駄目だ」なんて言えないご主人が多いかと思います。うちも弱音を吐いたらすぐお尻を叩かれてしまうほうです。「自殺対策に取り組む僧侶の会」の仲間は、人の悩みを受け留めますからストレスもたまってきます。そこで年中集まって飲み会を開いて自分の悩みを打ち明けられる場所を作り、我々自身が悩み過ぎて、行くところまで行ってしまわぬように心がけています。そんな身近な「安心して悩める世界」を作ることも大切です。私は「自殺対策に取り組む僧侶の会」の目標である「安心して悩むことのできる社会を目指します」というスローガンは、まさに立正安国だと思って活動してます。超宗派の活動の中で念仏を唱えるお坊さんたちも実は、一緒にお題目を唱えているんだ、そんな思いで共に活動しています。
 
質疑応答
司会者 質疑応答に移ります。
 
質問1 自死遺族に対しての配慮が必要とのことですが、「自殺というのは命を粗末にして浮かばれない」「地縛霊になる」「地獄に堕ちる」など、これは僧侶としていつか言わなければならないことだと思います。それを吉田さんの場合はずっと言わないのか、それともある時期を選んで言うべきなのか。遺族に対して配慮ばかりではなく、自殺はいけないという話を、あなたならいつするかということをお答えください。
吉田師 そもそも「自死は悪いことか」という議論から始める必要があるかと思います。私は、追い詰められて死ぬしかなかった、それしか選びようがなかったという人に対して、それがいけないとは言えないと思います。実際に自死問題にかかわっている「自殺対策に取り組む僧侶の会」のメンバーも同じ思いで取り組んでいます。「自死者は成仏しない」「自死は悪いことだ」という議論から是非、宗門や現宗研でも考えていただきたいと思います。ただし、今日何度も申し上げているように、臨床の現場にたった教化学の立場から教義を考えていただきたいと切に願っています。
    質問への答えですが、私自身は手紙相談の実践の中で、決して自死が悪いと責めることはできないと思っています。ですからそれを「いつ言うか」と問われても、「言う必要はない」としかお答えできません。
司会者 司会者にも発言させていただきますと、私も自死関係の議論学会等も拝聴しておりますが、仏教では自死を否定してない、成仏の可能性が残ってると言えると思います。自死者も成仏させるのが供養だという考え方のほうがむしろ主流になってるように、個人的な見解も含まれていますが、私は受け止めています。
質問2 アンケート報告書を見ると、調査項目作成にあたっては秋田県医師会による自殺要望対策アンケート調査を参考にしたとありますが、これはどのような経緯からでしょうか。
吉田師 このアンケート作成にあたり、宗会議員の柴田寛彦師が関わり、ご自分の地元の秋田医師会の調査もベースにしながら、この、アンケートの設問を考えられたそうです。ちなみに、私はアンケート作成に関わっていません。
質問3 アンケートのからも自死に対する偏見や誤解が多いということが読み取れます。そこで、啓蒙が重要だと思います。まずは、僧侶対象の啓蒙に相当の時間を費やす必要があると思います。私は「いのちの電話」の相談員をしていますが、啓蒙から始まりたくさんのレクチャーを受けました。以前は、自殺が悪いと説教したこともありましたが、レクチャーを受けた後は絶対に説教しなくなりました。
 
吉田師 経験に基づくご意見をありがとうございます。
 
「『自殺総合対策大綱』6つの基本的考え」に基づき、お寺にできること      「自殺問題・総合対策プログラム」京浜教研運営委員私案
自殺総合対策大綱の6つの基本 準備段階(平成22年) レベル①(基礎の段階) レベル②(研修・発展段階) レベル③(ネットワーク段階)
① 社会的要因も踏まえ
総合的に取り組む
 ・正しい知識の普及啓発活動
 ・偏見をなくす取組み・支援体制の充実 ○既存の啓発資料を調査
○内閣府からの行政取組調査
○大綱パンフの入手
 その他 ・各寺院宛に既存資料配布・情報発信
・各寺院に既存ポスターを掲示
 (行政と民間の情報を活用する)
・地域ごとの掲示板・取次パンフの作成 ・各種研修会への参加
(民間主催・宗門主催等)
・檀信徒等への情報発信 ・資料作成
・研修会の企画・開催
・指導者の養成
・宗門内の組織作り
②国民一人ひとりが自殺予防の
 主役となるよう取り組む
 ・専門家への取次ぎ
 ・自殺のサインを見落とさない ◎足立区の取組みを取材
◎必須研修を体験学習(傾聴、グリーフケアなど)
・取次窓口の表示板を門前に掲示する
 (「ピーポ君の家」のようなもの)
・相談窓口や専門家の紹介(地域ごとに)
 (医療・行政・法律等の窓口への取次ぎ) ・傾聴訓練の受講(各会主催)
・うつ病等の心の病を学ぶ
・貧困支援について学ぶ
・相談窓口への付き添い ・取次体制の整備
・相談体制の充実
・相談窓口の掲示
・自死念慮者支援(面談・電話)
③自殺の事前予防、危機対応に加え、未遂者や遺族の事後対応に取組む
 ・未遂者や遺族への事後対 ◎自死者葬儀・法事における対応を学ぶ研修会が開けるよう準備(講師・プログラム等) ・自死遺族相談窓口の紹介(地域ごと)
 (行政・医療・各地「遺族の会」等)
・自死者葬儀・法事に関する研修会を各管区にて開催 ・自死遺族の支援
 (葬儀・年回法要の気配り・生活支援等についての適切な理解) ・自死者追善法要の開催
・分かち合いの会の実施
・総合的な対応を心がける
④自殺を考えている人を関係者が連携して包括的に支える
 ・各分野との連携
○地元の取組みを調査 
○相談窓口を調査
○関連(生活保護・職安・介護など)を調査  ・地元の連携先を意識する
・地元の相談窓口について学ぶ
 (医療・行政・教育・高齢者施設・法律・労働・金融・人権等々) ・民間ネットワークとの協力
 (ライフリンク、自殺対策に取り組む僧侶の会、自殺のない社会づくりネットワーク等) ・他宗派・民間団体等との連携
・檀信徒の専門家と連携し、地域ネットワークに参画・連携する
・ネットワーク先の情報収集・発信
⑤自殺実態解明を進め、その成果に基づき施策を展開する
 ・情報提供
 ・調査研究 ○ライフリンク等に学ぶ
○地元におけるネットワークの現況を確認 ・檀信徒・寺院における情報提供
 (アンケート協力等)
・総合的な対応の必要性を学ぶ
・情報分析・提供
 (檀信徒の情報等、守秘義務厳守)
・情報収集体制の整備
・調査研究・分析体制の整備
⑥中長期的視点に立って
継続的に進める
 ・継続的な実施 ○宗門内に行政的ネットを構成する。
○檀信徒協と連携して僧俗一体の国民的活動となるよう計画を練る。 ・意識改革あきらめない、自分たちにもできる
・支援者本位から当事者本位へ向けて
・宗門運動としてスタートする。宗門内に「総合対策センター」、各管区に支所をつくり、各会に協力を呼びかける。 ・日常的な人付き合いを大切に
・寺を安心して悩める場所に
 (お互いに支えあう場面つくり) ・目標を設定し、施策を実行する
 (平成28年までに平成17年の自殺率を20%以上減少させる「大綱」)

PDF版をダウンロードする