現代宗教研究第38号 2004年03月 発行
寺院経済基盤としての葬儀について―二月に開かれた千葉教研をもとに―
宗報平成十五年五月号 第一八二号改訂第十四号
寺院経済基盤としての葬儀について
|二月に開かれた千葉教研「二十一世紀の寺院運営」から
(日蓮宗現代宗教研究所主任) 伊藤立教
岩間湛正宗務総長が掲げる平成十五年度施政の重点目標として、葬儀に対する取り組み、が挙げられています。
平成十四年度の千葉県教化研究会議は、平成十五年二月二十六日、茂原市の葬祭会館・茂原アスカ「法輪閣」を会場に、千葉西部宗務所(畠山慈浄所長)が担当し、教師百十六名寺庭婦人三十七名計百五十三名が参加して、「二十一世紀の寺院運営|立教開宗七五〇年からの出発」をテーマに教化研究の場が持たれたが、その内容は、葬儀に対する取り組み、そのものでした。
開会式に続く基調講演に先立つ挨拶で、アスカ葬儀店丸淳一社長が、大規模に多角的に展開している事業について、実業家としての抱負を披露、「世の中は、目に見えるものと見えないもの(これが本当の世界)で成り立つ。僧侶から、精神世界をご指導願いたい」と締めくくられました。イラク情勢・拉致問題・少子高齢化の世情から入る、二十五分間のわかりやすい「講演」でした。
お寺は生涯何をする
基調講演は、アスカ葬儀店本橋和也本部長が、
1、葬儀社から見る葬儀の形態
●今までの葬儀
村の一大事! お葬式は隣組とお寺でする
葬儀の手配は隣組が釜の準備まで!
●現在の葬儀
村のしきたりと葬儀社のしきたり
土地の人間と新住民
●未来の葬儀
住職のいないお葬式、無宗教、送る会
結婚式の昔と今
2、変わりつつある葬儀の現場
●変わりつつある信仰
先祖あっての自分から、自分が先祖
●寺院から離れる葬儀
菩提寺があっても寺院紹介の相談をするお施主様
寺院墓地より宗派を問わない霊園が満杯
●現代社会に合わない寺院
お葬式の時だけ思い出すお寺様
心の教育
農家は生涯米を作る、お寺は生涯何をする
の順に、六十五分間話されました。
私たちが傾聴すべき内容でしたので、要点を箇条書きにご紹介します。
葬儀という場面で最も身近にいる葬祭業者から見た「お坊さん・お寺さん」は、
㈰ ふだん葬儀のことを檀家さんに話していないから、「葬儀は葬儀屋に」となる。
㈪ 従って、葬儀の日程と僧侶紹介を葬儀屋がやることになる。葬儀屋主導になる。
㈫ 葬儀のお坊さんを紹介するという寺院紹介業者がいて、葬儀屋に接触してくる。
㈬ お布施の意味がわからない、お布施に疑問がある、と聞かされる。
㈭ 寺を持たない僧侶は故人をあの世に送れない、と教えてほしい。
㈮ 無宗教葬がどんどんふえる。創価学会の友人葬(カザリモノの僧侶はいらない)。
㈯ 結婚式の今昔と同じで、(お坊さんの)知らないうちに葬儀が変わってきている。
㉀ ホテルでキリスト教式結婚式を挙げたり、結婚式はせずに披露宴のみ行う今の若者。
㈷ そんな若者が葬儀の喪主になるとどうなるのか、という危機感が全く僧侶にない。
㉂ 子供の減少、社会の高齢化、核家族化、檀家減少、葬儀の簡素化、布施半減。
=cd=e152 葬儀布施|親の葬儀の喪主となる四、五十代の支払える金額となる。金額言うべき。
=cd=e152 若い人に、先祖あっての自分、と教えておかないと。これはお坊さんの役割。
=cd=e152 十年後に困る。先祖の供養をしない。菩提寺があっても寺院紹介を頼む喪主がいる。
=cd=e152 菩提寺が地元の寺の紹介を葬儀屋に頼む。おかしい。菩提寺が寺を手配すべき。
=cd=e152 葬儀布施やお葬式、有り難いと思ったら文句言わない。普段のつき合いがないとダメ。
=cd=e152=cd=72b9 寺院墓地より霊園墓地がいいという。菩提寺を持ちたがらない。意味づけしないと。
=cd=e152 信仰心を起こす働きかけ。苦しんでいる人たちに教える。
=cd=e152 今月の日蓮宗新聞に、無料でお寺の開放を、とあった。葬儀も含めた対応を。
=cd=e152=cd=72bc お寺は生涯何をする─住みやすい国をつくるための人づくり、寺を伝え残して。
=cd=e153 お寺と葬儀社は、切っても切れないご縁あり。どうかよろしく。
という内容でした。
お坊さんは法を説いてほしい
昼食後のパネルディスカッションは、千葉四管区からそれぞれ教師二名寺庭婦人一名がパネラーとなり、伊藤立教現宗研主任・西川佳璋千葉教化センター長・大塩孝信千葉教研実行委員長をオブザーバーに、田中見定千葉教研運営委員が司会して、配布された資料集のなかに印刷されているパネルディスカッション内容十項目を話し合いました。事前にパネラー全員が打ち合わせを行い、発言内容・発言順を割り振って本番に臨み、集計し終えて資料集に刷り込んである千葉四管区全教師・寺庭婦人対象アンケート「二十一世紀の寺院運営について」も参考に、一般参加者の意見も聞きました。
パネルディスカッションを終え、質疑応答とまとめで、六時間の教研会議を終了しました。
お坊さんにまだ信用があるうちに
講評としては、
・女性教師・寺庭婦人の参加が全体の三割と多く、発言も多かった。
・葬儀会館は、会議の会場として使いよかった。
・葬祭業者二氏の話は具体的で、「お坊さんは法を説いてほしい」など参考になった。
・パネルディスカッションは成功した(おそらく初めて)。
・予定調和(はじめから結論が見えてしまっている)させぬよう、結論を急がなかった。
・檀信徒に「なぜ菩提寺が必要か」をいうなら、「なぜ日蓮宗が必要か」を自問すべき。
・法を説きたいが、「日蓮宗の規範」が与えられていない。教学の不在、教化の混乱。
・葬儀に安住し、法を説かない。教化をしない、「教学」を必要としない現場。
・日蓮聖人が大事か、日蓮宗が大事か。日蓮聖人が大事、というなら、すべきことあり。
・お坊さんにまだ信用があるうちですぞ、檀信徒教化、未信徒教化は。
・教研らしい教研になった。調査と研究の機関である現宗研にとっても、得るもの大であった。
収入少なく、とても生活できない!
調査と研究の機関である現宗研にとって得るもの大、であったのは、千葉教研事務局が事前に収集し、当日配布(事前に配っておかれたら最高)の資料集に掲載した四十三項目のアンケート集計結果です。
このアンケート集計結果のなかの書き込み式回答を取意抜粋したものを、資料として読者諸師に提供します。
教師を対象にしたものでは、
A(今後の社会情勢・寺院運営を考えると子息にお寺を承いでもらうのに不安はありますか、の設問に対し、ある、と回答した人の意見)
人口激減もあるが、(若い)寺院上人があまりに俗的になっている。
新世代の宗教観、常識の変化・喪失。
B(寺院に対する意見を求めた設問では)
住職というものを頂点と思う考え方では、進歩がない。
世情、時の流れに対しては、敏感であるべき。代務の寺を維持できないときは、新しい団地などへ宗門から移す方法を。
寺院の過疎・過密を調整していただきたい。
社会の宗教意識の変化、殊に宗教離れは、今迄の寺院の在り方を根本から考え直すこととなる。
葬儀は寺院の死活問題。しかし、騒ぎ立てるのは逆効果。
寺庭婦人を対象にしたものでは、
C(お寺に嫁がれたことで困ったことはありますか、の設問に対し、ある、と回答した人の意見)
寺の風習になかなか慣れなかったこと。
D(お子さんに寺の後を継いで欲しいとお考えですか、の設問に対し、はい、と解答した人の意見)
父親の背中を見せました。例えば昨夜いくら遅く帰っても朝は時間に起きてお経を行うというような。
E(上の設問で、いいえ、と回答した人の意見)
病弱ゆえ、田舎等の寺庭は勤まらない。
収入が少ないため、とても生活できるとは思えないから!