現代宗教研究第38号 2004年03月 発行
過疎地寺院対策についての考察
過疎地寺院対策についての考察
(日蓮宗現代宗教研究所研究員) 小寺成文
1、過疎地の要件
過疎地域自立促進特別法 H一二・四・一〜二二・三・三一 一、一七一自治体
《目的》人口の著しい減少に伴って地域社会における活力が低下し、生産機能及び生活環境の整備等が他の地域に比較して低位にある地域について、特別な措置を講ずることによりこれらの地域の自立促進を図る。
《要件》人口減少率三十%以上(H七/S三五)
人口減少率二十五%以上(H七/S三五)で高齢者率二十四%以上
人口減少率二十五%以上(H七/S三五)で若年率十五%以下
2、追跡調査にかえて
以前の現宗研による実態調査地は、十地域に及ぶ。今日は現地へ出向いて同じように追跡調査をすることが困難であるので、現在の人口・寺院数について調査。
現宗研による実態調査地は十地域に及ぶが、調査報告に対する反響に伴って順次要請されて選定されたもので、過疎指定地域以外も含まれている。何らかの支援策を講じるためには、過疎指定地域と人口に対し寺院過密地域(千葉・山梨県等)を調査して明確な選定要件が必要と思われる。支援を行う場合に要件が不明瞭では障害になる可能性がある。
3、今後の調査の可能性について
㈰ 合寺実施寺院についてのアンケート
平成八年二月二十九日過疎地寺院対策懇談会より宗教総長宛に、統廃合を進めることで実質的な法城としての寺院を目指すべきであるとの提言がなされた。その際廃寺となる寺院に配慮して、新しく山号寺号を設定、歴史的な物や制度を残す、更には統廃合と云う言葉をやめて合寺とすることも提案された。
平成六年度以降十五年二月迄、宗門で把握している合寺事例が十七件あり、今回それらの寺院に合寺に至るアンケートを実施。
〜別紙表照〜
この結果を取りまとめ今後合寺を希望する寺院の参考とする。
㈪ 過疎地寺院・寺院過密地区寺院へ合寺希望調査
昭和五十九年の宗教調査によると過疎地寺院六百三十九ヶ寺が存在。うち、九州教区九十四ヶ寺(平成十二年版寺院名簿によると九十三ヶ寺)。ほとんど実数は変化無いと思われこれらの寺院と、寺院過密地区寺院へ調査。
宗務所経由で上記寺院に対し、合寺の可能性も含め住職・後継者・総代・青年檀信徒等による今後の寺院活動・運営についての話し合いを提案。これにより過疎地現場の声も報告され宗門としての支援取り組みの参考になる。
合寺を希望する所には㈰でのアンケート集計結果を参考にして、宗門が全面的に指導する。法縁等の問題が考えられるため、話し合いに管区の宗務所長や有識者を交えることも必要であろう。調査は全対象寺院に行うが、対応は当然ながら返答や希望の意思表示があったところに限られる。
㈫ 不活動寺院の把握
【宗教法人法】
第八十一条 裁判所は、宗務法人について左の各号のひとつに該当する事由があると認めたときは、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権でその解散を命ずることができる。
㈰ 法令に違反して著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。
㈪ 宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと又は一年以上にわたってその目的のための行為をしないこと。
㈫ 宗教法人が礼拝の施設が消滅しやむを得ない事由が無いのにその滅後二年以上にわたってその施設を備えないこと。
㈬ 一年以上にわたって代表役員及びその代務者を欠いていること。
平成十年に「欠員寺院」「平成元年以降代務申請をしていない寺院」百六十一ヶ寺を抽出して実態調査が行われ報告されている。
しかし、住職・代務者がいても堂宇や庫裏がない寺院がある。宗門では宗費が納入されれば宗教活動が行われているかどうかの実態がつかみにくい現状があり、その実態を調査する必要があると思われる。該当寺院は本宗寺院が無い地域若しくは人口に対し寺院が少ない地域に積極的に移転を勧め、宗門より教師を派遣し未信徒教化を図る(調査方法としては宗務所経由が現地の状況が把握しやすいように思う)。
4、過疎地寺院活性化の為に
お寺があり教師が常住し朝夕の勤行が定時に始まりお題目を唱える。これは檀信徒に信仰の範を示すことであり、また地域社会において信頼をえ未信徒教化の為の第一歩である。しかし、過疎が深刻化し檀信徒が減少、寺族の生活苦により兼職を余儀なくされ勤めに出る教師がある。また寺を離れて出稼ぎに出る教師もある。
これまでは、寺門興隆は教師の個人的な努力(修法・言説・霊断等)に委ねられていた。しかし一部の悲劇的な過疎の状況を見ると教師が常住し布教活動が出来るよう宗門としてのサポートの必要性を感じる。以下の提案は、教師の資質・地域等が限定されるが検討を望みたい。
㈰ 財団法人を設立しグループホーム・施設を運営する(B1プロジェクトにて検討中)。
例えば、老人向けの施設であればそれがビハーラ活動にも繋がる。
㈪ 子供向けの教室
学校週五日制導入により休日の子供たちの過し方が問題となっている。お寺でその子供たちを受け入れ宗教教育・カウンセリング・学力指導ができないものか、学力指導が可能ならばいくらかの収入にもつながる。また檀信徒の子供たちに菩提寺に親しみを持たせ次世代へのアプローチとする。
㈫ 日蓮宗過疎地お寺ネット(仮)
HP上で希望があった寺院を紹介。行事・唱題行・修養道場等各寺の特徴を紹介し活性化の一助になるようにする。
5、最後に
現宗研では、昭和五十八年から六年に渡り実態調査が行われ、克明な報告書が提出されている。また宗務総長の私的諮問機関として置かれた過疎地寺院対策懇談会により平成二年より幾度か報告・提案もなされている。具体的に対策を実施していくためには、予算を計上し担当の部署を明確にすることが望まれる。次頁の過疎地域分布図で比較しても過疎化は確実に広がりを見せている。これまでの調査研究を生かす為にも早急な対処を要望します。