ホーム > 刊行物 > 現代宗教研究 > 現代宗教研究第40号 > 行学林構想について—その内容と取り扱い—

刊行物

PDF版をダウンロードする

現代宗教研究第40号 2006年03月 発行

行学林構想について—その内容と取り扱い—

 

行学林構想について—その内容と取り扱い—
 
(日蓮宗現代宗教研究所研究員) 中 村 龍 央  
 
 はじめに
 北陸教区教化研究会議(北陸教研)法器養成部会において、平成二年より平成六年までの五年間にわたり、法器養成のための教育機関としての「仮称日蓮宗行学林」設立に向けての研究がなされました。日蓮宗現代宗教研究所(現宗研)でも教育制度についてのプロジェクトを組み、田島辨正研究員(当時)間宮啓允嘱託(当時)を中心とし、研究を重ねました。その成果は日蓮宗宗務院教務部、教育制度検討委員会へ提出されました。
 北陸教研では、行学林の建物の青写真まで作成しました。この頃、清澄寺に研修会館の建設が検討されており、北陸教研では、この計画に行学林構想を当ててはどうかと研究提案しました。しかし、行学林構想は採用されず、清澄寺研修会館が建設されました。以来北陸教研では、折角の研究成果が中央に取り上げられなかったと認識されるようになりました。その結果、伝道企画会議が開催されている現在、教研は必要ないのではないかという意見も出てきて、教研の存続が一時危ぶまれました。そこで今回、行学林構想の内容と取り扱いについて調査し、今後の法器養成について研究していきたいと思います。
 
 
 第七回北陸教研(平成二年)において、町田龍賢師が現在の宗門子弟教育について、師僧一人が弟子に全てを教えることは不可能であるとして、各管区に法器養成・情報交換の一助として「人材バンク」の設置を提案し、賛同を得られた。
 第八回北陸教研(平成三年)では、青木正憲師が「日蓮宗学林」設立の提言を行い、当該部会参加者全員で次の決議文を作成、全体会議で決議された。
         《第八回北陸教区教化研究会議決議文》
    立正大学あるいはその他の教育課程の修了者を問わず、伝道者としての志ある者すべてに対しての僧侶教育・法器養成機関として、現在の信行道場入場前に一年乃至二年程度の日蓮宗学林の設立を提言する。
    新たに設置される学林においては、僧侶としての課程、つまり信仰を基本に置いた教学・教化学・言説・声明・法要儀式等の総合的一貫教育が行われるべきである。
    とにかく、仏教各宗派中、最短のわずか三十五日でいわゆるインスタントの僧侶を送り出さないためにも、宗学林の設立は急務である。
    僧侶の全人格的な、又僧侶として最低限必要とされる必修課程の一貫教育を行う日蓮宗学林の設置を強く要望するものである。
    法器養成部会としては、この決議文を宗会・現宗研はもとより、各地方教研へも送付し、北陸教研だけの議論におわらせず、全国的に働きかけていく考えである。
    又、学林の内容についても、いろいろと意見が出されたが、時間の制約上、充分に検討することが出来ず、引き続き次回の教研の検討課題とする。
 
 現宗研では平成三年・四年と、田島辨正師を中心として「仮称日蓮宗行学林」設立に関する基本構想案がまとめられた。
 第九回北陸教研(平成四年)では、現宗研の「基本構想案」を討議資料として研究した。その結果、「基本構想案」は支持されたが、具体性の乏しさを指摘する意見が多く出された。そこで間宮啓允師を中心として、第十一回北陸教研(平成六年)に行学林の全体像や具体的なカリキュラム案・予算案等の素案としての『「仮称日蓮宗行学林」設立に向けて—最終報告—』が発表された。
 
 
 平成四年に現宗研教育制度研究プロジェクトより中間報告が、教務部、教育制度検討委員会へ提出され、平成五年二月の第五回教団研究懇談会に於いて田島辨正師がプロジェクト報告を行い、また間宮啓允師も同所に於いて北陸教研中間報告として、「仮称日蓮宗行学林」の概要及びカリキュラム案を発表している。
 
 行学林における教育内容
  修学部門
   イ、教師自らの信仰の基盤となる教義の修得
   ロ、現代社会に対応し得る教化学と教化実習
   ハ、信仰に裏付けられた法儀の修得と寺院実務の研修
   ニ、社会状況に即応するに必要と思われる一般学
  修行部門
   報恩誓願行を身延山に於いて三十五日間実施する。あくまでも信行一途の訓育指導を行うものとし、宗祖への直参を誓う場としての位置づけを明確にする。
 
開設期間と年間カリキュラム
 満二十歳以上の男女を入林対象とし、度牒資格のみを最低基準とし、一定の僧風教育を事前に受けている入林者に対しては期間軽減などカリキュラム上相応の対処を検討する。
 ◎ 四月・五月 第一期研修期間 本宗教師として必要最低限の課程を修得する基本教育期間
 ◎ 六月・七月 第二期研修期間 第一期研修期間に修得した課程を更に発展応用し、一層広範囲な専門知識と布教体験・僧堂体験を得る期間
 ◎ 八月    自主研修期間(夏季休暇)
 ◎ 九月〜十二月 第三期研修期間 第一・二期研修期間に修得した事柄を更に深め、一段と実践に即した体験を得る期間
 ◎ 一月    第四期研修期間(報恩誓願行) 現在の信行道場に代わるものとして、身延山に於いて三十五日間、唱題・読誦を中心とした信行一途の僧堂生活に励む。宗祖に直参し、自身の信仰を確立し、本宗教師としての自覚を身につける
 ◎ 二月・三月  第五期研修期間 現代社会と宗教者としての接点になるであろう様々な問題についての特別
   講義期間
    なお、第一・二・三・五期の各研修期間の終了時に期末検定を課すものとする。
    以上に対応した年間カリキュラムが策定されている。
 
   指導体制
    学林長・常勤講師・外来講師等の指導により、三宝給仕を基本とした日々の行法、学解・実習を中心とした科目の修得をする上で、日々の生活全般にきめ細かい配慮と指導助言が求められる。常勤講師とは別に、学林生十人で一班を活動単位として、各班に一人ずつの生活指導員を配置し、日々の課業の補助はもちろん、生活全般にわたって「同門の徒」としての立場で指導助言を行う。
 
   モデリング場所と面積
    千葉県八日市場市飯高 飯高寺隣接一万九千坪(都心より九十分) 市役所の了解を得ており、飯高寺にも説明。
 
   概略予算
    三十五億〜三十七億円(土地取得・造成・建物一式)。
 
   その他
    モデリング場所を測量し、各種青写真を作成。不動産業者・建設業者にも検討させていた。
 
終わりに
 北陸教研では、折角の研究成果が中央に取り上げられなかったと認識されています。私も、そのように感じていました。しかし、今回調査をしてみますと、行学林構想は現宗研と北陸教研の一種共同研究といえます。また、平成五年の教団研究懇談会に於いて発表され、教務部、教育制度検討委員会にも報告されており、総長諮問が出され、第二十六回中央教研の現代教育部会で取り上げられています。これらの事実から、研究の成果は中央に取り上げられていると認識できます。
 行学林構想が一定の取り扱いを受けた事例として、平成六年度千葉教研が「育つ教団・育てる教師—行学林設立を中核とした教師養成システム確立の可能性—」と題して開催されたことが挙げられます。しかし、飯高寺隣接地買収のための地権者との折衝、建物の具体的設計図青写真、運用資金をつくるための霊園経営などを具体的に説明したことが、地元教師の知らないうちに話が進んでいると強く反発され、千葉教区でそういう話は受け入れないということになったそうです。
 宗門としては教育制度検討委員会(昭和六十三年発足)が、平成四年の答申㈽で「仮称日蓮宗行学林構想」にふれています。ところが平成六年の奥邨正寛宗務総長諮問の中で行学林構想を視野に収めた教育制度の検討を挙げているのに、平成十三年の答申「教育制度改革案中間報告(1)」では行学林構想は明記されず、「仮称僧風林・僧道林」について書かれたものが渡邊清明宗務総長に報告されています。
 北陸教研の行学林構想は宗門中央に届いたが、宗務当局がこれを採用しなかった、ということです。
 では、なぜ北陸教研において「取り扱われなかった」と感じているのかというと、多額な費用をつかって行学林の建物の設計図まで作成したのに、提案が採用されず、清澄寺研修会館が建てられたという認識です。しかしながら、行学林構想のハードウェアである建物だけを建てても、ソフトウェアがないと意味がありません。この行学林構想は大変立派で、日蓮宗の将来にとって必要なものだと考えられます。しかし、当時強制力のある修行機関は三十五日間の信行道場だけの状態で、いきなり一年間の修行をというのでは、拒絶されても仕方がないと思われます。提案の仕方が拙速すぎた、のではないでしょうか。宗門は信行道場入場前の僧道林を、平成十八年度より義務化します。これは、行学林構想が取り入れられたものと考えます。
 今後、本来の一対一の子弟教育も踏まえて研究していきたいと思います。
 

PDF版をダウンロードする