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現代宗教研究第40号 2006年03月 発行

不殺生の憲法九条で平和をつくる

 

 
不殺生の憲法九条で平和をつくる
(日本山妙法寺僧侶) 武 田 隆 雄  
 
 南無妙法蓮華経。今日はこのような場を作っていただきまして、本当に感謝申し上げます。日蓮宗門の僧侶の皆様とも様々な場所でご一緒して、唱題行させていただいています。私は日本山妙法寺僧侶の武田隆雄と申します。出家したのが約三十年前で、今は五十代です。日本山妙法寺の東京渋谷道場で、ご修行させていただいています。
 
  『立正安国論講讃』の紹介
 
 私がお持ちしたお手元の資料を、紹介・説明させていただきます。昭和四十四年に、師匠の藤井山主が日蓮宗宗務院の講演に招かれ、『立正安国論講讃』として、『立正安国論』をご講讃された内容です。非常にまとまった内容ですので、後でご覧になっていただければありがたいと思います。それから、これは『天鼓』といいまして、日本山妙法寺の月刊の教誌です。日本山の現在の活動内容を写真で紹介したり、山主の法話やお弟子さん方の報告文などが出ております。この二・三月号の表紙写真は、スリランカ、ゴールの仏舎利塔落慶の模様が伝えられております。ご参考にしていただければありがたいと思います。後でお話しますが、三年程前から、東京を中心にしたキリスト者を始め仏教各宗派のお坊さん方で、九条を守りましょう、戦争に反対しましょう、との一致点で「平和をつくり出す宗教者ネット」(略称「宗教者ネット」)として、緩やかなネットワークをこしらえました。毎月一回、今月は明後日に、キリスト者の皆さんも一緒に、自衛隊のイラク派兵中止を求める祈念として、内閣府への署名提出と、首相官邸前の各宗派のお祈りを勤めます。当初は三十人程度でしたが、今は二十名程で、今回が第十八回目です。「我が身に法華経を読む」という題名の藤井日達山主の法話の一節ですが、日本山妙法寺僧侶の基本的姿勢として紹介させていただいています。こちらの石川浩徳上人はじめ、何名かの方々が、呼びかけ人に名前を連ねていただいた「宗教者九条の和」。先月の四月十五日に、結成の集いと記者会見を京都で行いました。大正大学元学長で呼びかけ人・世話役の天台宗僧侶村中祐生先生が、当日夕方五時に京都の地元テレビ局に生出演されて、五分くらい話されました。京都はご存知のように仏教寺院が多いので、報道されたのだと思います。今はこの「宗教者九条の和」をなんとか広めていきたいと努めています。これでお手元の資料のご紹介を終わらせていただきます。
 
  『宗教者九条の和』について
 
 「宗教者九条の和」がなぜ「和」になったか。昨年の六月に、大江健三郎さん、井上ひさしさんなどの著名な文化人と言われる方々が呼びかけて「九条の会」アピールが出されました。宗教者も含めた誰もが非常に賛同できる内容だと思います。今、「九条の会」はいろいろな地域、職場で大小合わせて一四〇〇、どんどん増えています。地域の「九条の会」を立ち上げる際に、宗教者がまとめ役で動かれています。もちろん、日蓮宗のご僧侶の方も、各地域で「九条の会」の立ち上げに働かれています。それで、宗教者の全国的な会をこしらえないといけない、と。昨年六月に「九条の会」アピールの呼びかけがありましてから、「宗教者ネット」、日本山妙法寺として何とかしようという思いがありましたが、なかなか突破口、きっかけがなかったのです。そうした中で村中先生が原案を作り、「宗教者九条の願い」の五項目ができました。この中にもあるように、聖徳太子様の『十七条の憲法』にも倣い、「宗教者の九条の会」という組織より、「和」の方がいいんじゃないかと、まとまりました。当初、まとめていく際に、実務サイドでどうまとめるかの議論があり、手間がかかりましたが、ようやく、四月十五日に京都で発足式を迎えました。この九条は、非常に広範囲な人たちが賛同できる内容だと思います。広範囲のいろいろな人たちが参加しやすい受け皿を作らなくてはいけないだろうと、非常に苦心、努力いたしました。お陰様で、京都や奈良など有名な本山の貫首さんも、呼びかけ人に名を連ねていただいています。キリスト教の方は非常にまとまりが良く、カトリックでもプロテスタントでも、九条に関してこれ程まとまって呼びかけ人に名前を連ねたことは、今日までないだろうという程、担当されたカトリックの方も驚いている状態で、非常にありがたいことだと思います。これからは、各宗門の宗務総長はじめ仏教の方々にも更に働きかけ、呼びかけ人に名前を連ねていただくように努力してまいりたいと思います。日蓮宗門のご僧侶の方々は全国で一万数千人いますので、当面、その中の一割でも賛同していただき、禅宗、真言宗、念仏宗など各宗門も結集できるような状態を作っていきたいと思います。意見広告をはじめシンポジウムなどもしていきたいと思います。今、日本は中国や北朝鮮の隣国と問題がありますが、日中友好宗教者懇話会会長の小野塚幾澄先生に宗教者の立場から、アジア諸国や隣国と、仏教、宗教交流を通して憲法九条をどう考えるかを述べていただいたり、北朝鮮との交流を進めている清水寺の貫主さんに、隣国と宗教交流する中での九条の尊さを述べていただいたり、そのようなシンポジウムなどを計画できるよう勤めていきたいと思っています。
 日蓮大聖人様の教えに禅天魔、真言亡国、念仏無間、律国賊という四箇格言がありますが、キリスト教、立正佼成会、新宗教といわれる所や他宗門の人たちとも交流を深めてきています。私が言うのもおこがましいのですが、日蓮大聖人様が現在ご在世なら、他宗門の人にどう働きかけるかとなると、ローマ法王のように、超宗派で戦争のない平和な世界を作っていくため、宗教者が協働していくだろうという思いで、今、勤めさせていただいています。
 
  立正安国の教えから照らして
 
 毎月ニチレン出版さんから送っていただく『現代仏教』の五月号に、「九条の和」が紹介されました。同じ号の「私の意見」に「押し付けられた現行憲法」と、早坂鳳城上人のご文章が出ています。九条を改憲し、なくしていく動きが非常に強まっています。また、左翼ではイデオロギー的な議論も出てくるかと思うのですが、私たち宗教者が九条に対してどう向き合っていくかという時に、早坂上人のように、GHQに押し付けられたんだからけしからんなど、そういう世俗的な話ではなく、私たちが九条と関わる中で一番大事なことは、日蓮大聖人様の思いです。日蓮大聖人様がご在世ならどう対処していかれるか、お釈迦様の法華経に照らしてどうなのか、という議論をすべきでしょう。宗教者として九条をどう語っていくかとなると、世俗的な話では少し不足する部分が出る気が致します。憲法九条はどうして大事なのか。九条をなくす動きに対してどのように歯止めをかけなければいけないかを、仏教の不殺生戒、日蓮大聖人様の立正安国の教えと照らして考えることが大事かと思います。マスコミが言っている北朝鮮が攻めてきたらどうするのかとか、そういう恐怖感を煽られているような状況の中で、宗教者として、仏教者として、日蓮大聖人様のお教えをいただいている立場として、人々に九条の大事さ有り難さを伝え、安心感を与えていくことができるのは、私たちや日蓮宗のご僧侶・ご信徒の働きだと思います。
 明治維新の頃に、僧侶の肉食妻帯と髪の毛を伸ばすことを許す、と当時の政府から許可、太政官令が出されました。僧侶の生きる立場やご修行の姿というのは、政府や時の権力によって規定されるものではなく、常に仏法、法華経で規定されるべきであります。私達は僧侶として、政府や力あるものに対して、仏法の教えから上に立ち、優位性を保たないといけません。そのためには、今現在の社会の動きや状況を、ひとつひとつ仏法の教えから見る必要性があると思います。
 私たちは、改憲する動きを止め、どうにかして九条を守らなければいけないと思っているのですが、そのためにはどうするのか。共産党機関紙「赤旗」が「九条の和」の記事をたくさん載せるものですから、これはもうけしからん、唯物史観の考えを持つ共産党の機関紙がそういうことをしてはいけない、と創価学会機関紙「聖教新聞」に出ています。創価学会は、今は権力側に立って動いていますし、キリスト者を始め日本山も日蓮宗の皆さんも、創価学会には被害を受けていると思いますが、一般会員は、九条を守っていかなければいけない、という思いが強いようです。それに対しての働きかけを考えていかないといけない気がします。キリスト者の方々も、創価学会へ働きかけるべきとの思いを持っていますので、「九条の和」で、今後、議論して深めていきたいと思っています。
 
  敗戦亡国の悪因縁
 
 九条を守る動きの中で私たち宗教者、仏教者が、どう関わりを持てばいいのか。一つだけ思うのは、因縁です。敗戦亡国の因縁を考えます。戦前戦中に宗教者、仏教者が戦争協力したうえ、靖国神社、護国神社にどんどんお詣りしなさい、と。お詣りした結果が敗戦亡国です。敗戦亡国の八月十五日を迎えたと同時に、朝鮮半島、中国、太平洋地域に作られていた護国神社を、現地の人々はとにかく打ち壊しました。怨嗟、恨みとかつらみの対象として護国神社はあったのです。小泉首相は、英語で戦争神社といわれる靖国神社へお詣りしています。戦前戦中は、靖国神社にお詣りし、治安維持法を作り、共産主義者でなくても自由主義者でも宗教者でも思想的にどんどん引っ張られ、拷問を受ける、そういう時代でした。今は、反戦ビラをマンションで撒いた、自衛隊官舎の中に入って撒いた、高校の前で君が代・日の丸に反対したビラを撒いた、などで警察に掴まってしまう状況です。今日も、戦前と同じような動きが起きています。敗戦亡国の悪因縁で、あの状況が再び作られようとしています。因縁を断ち切るためにはどうするのか。そのためには、九条を守り、広め、生かしていく。とりわけ朝鮮半島をはじめ、アジアの国々、中国の人達と仲良くしていく。私たちは、法華経の教えをいただいた宗教者の立場で、どう説明し、具体化していくかが大事です。その一つとして「九条の和」の動き、諸宗教で協力して九条を守って広げていく動きが大事だと思います。
 今、情報の時代と言われてるのですが、肝心な、正しい情報が入っていません。例えば、「ネイチャー」という世界的に権威あるイギリスの科学雑誌があります。日本政府は、横田めぐみさんの遺骨を北朝鮮から持ち帰ってすぐに偽物であると断定しました。しかし、「ネイチャー」は二回にわたって横田さんの遺骨に関し掲載し、偽物であるとは断定していません。鑑定された帝京大学の先生は本物であるとか偽物であるとかじゃなく、もう遺骨そのものが誰のものであるか判断できないお骨である、と言っています。最初は、警察の科学捜査研究所に依頼されましたが、そこではできない、と。そして、帝京大学のこの先生に依頼されましたが、この先生は判断できなかったのです。今、この先生は警視庁の科学捜査研究所の所長さんに迎えられています。これに関して、国会で民主党議員が質問しましたし、議事録にも出てます。北朝鮮は怖いんだ、悪いんだという報道がある一方で、客観的情報が的確に伝えられていない状況があります。この例からも分かるように、私たちはインターネットなどを通してしっかりと情報を掴む必要性があります。
 先程お話したように、仏教の教え、法華経の教えからみて、今の日本はどうなのか考える必要があります。ドイツを見ればはっきりします。ドイツは、首相はじめ大統領が何回、何十回とヒットラーの犯罪に謝罪し、補償しています。隣国のフランスなどと仲良くし、EUという経済協力体をこしらえています。日本もそのような流れを作るべきだと思います。そのために、憲法九条を守り、広げていくことが大事だと思います。
 
  「愚直亀歩」の姿で
 
 何度も繰り返しになりますが、私たちは法華経の教え、日蓮大聖人様の教えをいただいているわけですから、法華経の中から憲法九条を考え、行動をしていくことが大事です。様々な集会が一般市民によって非暴力で行われています。そのような場所で、私たちは太鼓を撃ち、お題目を唱え、そして但行礼拝を通して九条を守り、広げていくために努力すべきであると思います。そのためにも、お題目を唱える私たちは「愚直亀歩」、愚直に正直に、亀の歩みのような姿を示していくべきだと思います。
 藤井山主も平和憲法について、幾つかのご法話をしています。その中で「不殺生戒を守らんとする国の法律である」九条は、「人間の英知の到達点であり、仏知見の開顕でもあり、霊性の躍動でもあります」と述べられています。また、「南無妙法蓮華経を唱えて、この平和憲法を守ります」とも仰せられています。
私は、もし日蓮大聖人様がご在世なら、憲法九条を守るために、様々な方と協働していかれるだろう、との思いを強くしています。
 「仏教タイムス」に石川浩徳上人から、憲法改悪阻止のために行動を、との力強い言葉をいただいています。それから、日蓮宗も「立正安国お題目結縁運動」と、「立正安国」のお言葉も出ています。今の各宗教の憲法九条を守ろう、生かそうとする動きの中で、日蓮宗門が立正安国の教えのもとで、中心になるべきですし、なっていただきたいと念願しています。私たちもささやかですが努力させていただき、この憲法九条を守っていくことを祈念させていただきます。ありがとうございました。合掌
 

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