現代宗教研究第41号 2007年03月 発行
編集後記
編集後記
▼当職に就任以来五年七ヶ月、この研究紀要『現代宗教研究』(略称『所報』)の頁数は増加する一方で、今号はついに八〇〇頁を超えました。タイムリーな内容を提供したいと思ってのことですが、次号からは、ミニ講演、研究調査プロジェクト報告、調査報告、教化学研究発表大会などを現宗研ホームページ(http://genshu.gr.jp)で掲載してみては、とも考えています。▼教団論研究セミナー公開講座は、駿河台大学教授門馬幸夫氏と明治大学名誉教授圭室文雄氏の講演でした。門馬氏は同和問題に長く関わり、同氏著『差別と穢れの宗教研究』(一九九七年、岩田書院)に、法華経には差別表現がある、と言及されています。圭室氏は日本近代仏教史研究会会長で、詳細な資料分析をもとに研究発表をされています。▼教化学研究集会は、現場教師からの要請に応えて、庵谷行亨師が鋭意取り組んでくださいました。▼研究ノートは、研究員十六名でおこなった研究例会(毎月)発表を収録しました。▼ミニ講演は、研究調査プロジェクト会議開催時に、一時間の講演と三十分間の質疑応答のかたちでおこないました。▼研究調査プロジェクト報告は、研究員・顧問・嘱託が三つのプロジェクトチームに分かれて、年度ごとの研究調査項目を分担したまとめです。「現代と教学プロジェクト」は、門馬幸夫氏の法華経差別経批判に対する見解を報告しました。「教団・教化プロジェクト」は、男女共同参画について、作業チーム七名で共同報告しました。「現代社会プロジェクト」は、立正平和運動について特集しました。新年度の四月から、三プロジェクトに寺庭婦人が加わります。▼調査報告は、昨年十月の佐渡調査報告ですが、田中圭一氏の塚原配所研究をもとに、日蓮正宗が日蓮宗妙満寺隣地を購入したことが今年二月に分かりました。今年五月に落慶式をするといわれていますので、引き続き研究調査する予定です。▼教化学研究発表大会は、十名の発表と山口依乗師の特別発表を収録しました。山口依乗師は浄土真宗本願寺派女性僧侶で、布教使です。また、数少ない女性教誨師(札幌刑務所所属)で、心理カウンセラースーパーバイザーとして「マムズ心理相談室」を主宰されています。▼中央教化研究会議での時代小説家山本一力氏の平成十四年直木賞受賞作品『あかね空』をもとにした講演を、収録しました。『あかね空』は、浜本正機監督・角川ヘラルド映画配給作品として、今年三月三十一日から全国上映されます。家族や世間が肩を寄せ合って生きる江戸に、共に生きる社会が見えます。その中のお坊さんの役どころから、現代の宗門が社会から求められているものを見出したいと思いました。平成十九年度の中央教研は、四十回目になります。現代社会に積極的に発言している社会学者宮台真司首都大学東京准教授の講演を予定し、「宗教者と社会の関わり」を研究したいと思います。▼昭和三十年のいわゆる「小樽問答」で危機感をもった日蓮宗が同年七月に発行した『創価学会批判』の復刻版を作成し、全寺院に配布しました。希望者には、研究目的で無料提供しています。この『所報』と「年次年表平成十七年分」を、全教師に配布しました。「年次年表」は、いずれまとめる『近代日蓮宗年表』(昭和五十六年、近代日蓮宗年表編集委員会・日蓮宗現代宗教研究所編)の続編作成資料となります。▼「宗報」第一六九号(改訂創刊号、平成一四年四月号)以来、所長と主任とで交代に執筆を担当している「現宗研の研究調査ノート、時事ノート」で、タイムリーな情報の提供と記録を残しています。▼日蓮宗現代宗教研究所は、宗務内局ではありませんが、「日蓮宗宗憲第二十八条 現代宗教研究所長は、宗務総長を補佐し、宗務に参劃する。」と位置付けられています。研究所自体は、「日蓮宗現代宗教研究所規程」で運用されます。昭和三十九年の発足以来、教学の現代化(教化学)、新宗教対策、立正平和運動を当研究所の基本的三本柱にしながら、その時々の問題に半歩一歩先んじて、分析と提言をしてきました。平成十四年に石川教張元所長、平成十五年に中濃教篤元所長が遷化され、当研究所育ての親、生みの親を相次いで失ったかたちになりました。両師なら何とおっしゃるかと問いつつ、志を継ぎたいと思う毎日です。今年春の選抜高校野球大会行進曲は、TOKIOの「宙船(そらふね)」です。その歌詞は、あなたが消えて喜ぶ者にあなたの櫂(オール)をまかせるなという意味のことを語っています。志を継ぐ人から継ぐ人へ、と願っています。(平成一九年三月三一日、主任伊藤立教記)