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貞観政要 2000年01月 発行

貞観政要を上る表

臣競言す、臣愚比嘗みに朝野の士庶の国家の政教に論及する者有るを見るに、咸云ふ、若し陛下の聖明を以て、克く太宗の故事に遵はば、則ち遠く上古の述を求むるを仮らずして、必ず太平の業を致さん、と。故に天下の蒼生の陛下に望む所の者は、誠に亦厚きを知る。易に曰く、聖人は人心を感ぜしめて、天下和平なり、と。今聖徳の感ぜしむる所は、深しと謂ふ可きなり。〔▽二一頁〕
竊かに惟るに、太宗文武皇帝の政化は、曠古よりして求むるに、未だ此の如きの盛んなる者は有らざるなり。唐尭虞舜、夏禹殷湯、周文武、漢のの文景と雖も、皆逮ばざる所なり。賢を用ひ諌を納るるの美、代に垂れ教を立つるの規、以て大猷を弘闡し、至道を増崇す可き者に至りては、竝びに国籍を煥乎として、鑒を来葉に作せり。微臣早に史職に居るを以て、誦を成して心に在らざるは莫し。其の質を委し名を策し、功を立て徳を樹て、正詞議、志、君を匡すに在る者有らば、竝事に随つて載録し、用て勧誡に備へ、撰して十帙十巻、合せて四十篇を成せり。仍りて貞観政要を以て目と為し、謹んで表に随ひ奉進す。天鑒を紆らし、善を択んで行ひ、引きて之を申べ、類に触れて長ぜんことを望む。〔▽二二頁〕
易に云はずや、聖人は其の道に久しうして、天下化成す、と。伏して願はくは之を行ひて恒有り、之を思ひて倦む無ければ、則ち貞観巍巍の化、得て致す可きなり。昔、殷湯、尭舜に如かざるは、伊尹之を恥づ。陛下儻し祖業を修めざれば、微臣も亦之を恥づ。詩に曰く、我が皇祖を念へば、廷に陟降す、と。又云く、爾が祖を念ふこと無からんや、厥の徳を聿べ修む、と。此れ誠に祖先に欽奉するの義なり。伏して惟るに、陛下之を念へよや。則ち万方の幸甚なり。誠懇の至りに勝へず。謹みて明福門に詣り、表を奉りて以聞し謹みて言す。〔▽二三-四頁〕